大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和57年(ワ)2058号 判決

原告

山下運送株式会社

被告

カクイ貨物急送有限会社

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し各自金一四五万六三五六円及びこれに対する昭和五七年三月二三日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し金二七二万四八五五円及びこれに対する昭和五七年三月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、次の交通事故発生(以下本件事故という。)により物損を受けた。

(一) 発生時 昭和五七年三月二三日午後一一時二〇分頃

(二) 発生地 滋賀県坂田郡米原町番場地先名神高速道路上り線路上

(三) 事故車 大型貨物自動車(青八八か一〇八七号以下被告車という。)

運転者 被告榊正俊(以下被告榊という。)

(四) 被害車 大型貨物自動車(京一一か二七五〇号以下原告車という。)

運転者 木口正広

(五) 事故の態様

原告車が本件事故現場付近の追越車線を進行中、その左前方走行車線を同方向に進行していた被告車が突如右へ進路を変更し、原告車直前で停止したため、原告車が追突した。

2  責任原因

(一) 被告榊は右後方不注視の過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告カクイ貨物急送有限会社(以下被告会社という。)は、被告榊を使用し、同被告が被告車を運転して被告会社の業務を執行中、右のような過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

原告は原告車を所有していたところ、本件事故により原告車が全損したため、次の如き損害を被つた。

(一) 車の滅失による損害 金一四〇万円

本件事故当時の原告車の時価は金一四〇万円であつたから、原告は原告車の滅失により同額の損害を被つた。

(二) 休車損 金七五万七八五五円

(三) レツカー代 金一三万八〇〇〇円

(四) 代車使用料 金一五万円

(五) 積替人夫費用 金三万二〇〇〇円

一名八〇〇〇円の割合による四名分

(六) 弁護士費用 金二四万七〇〇〇円

4  よつて原告は被告ら各自に対し右損害賠償金二七二万四八五五円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五七年三月二三日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1のうち(一)ないし(四)の事実は認め、(五)の事実は否認する。

同2(一)の事実は否認する。

同2(二)の事実のうち被告会社が被告榊を使用し、同被告が被告車を運転し被告会社の業務を執行中本件事故を発生させたことは認めるが、その余は否認する。

同3のうち原告車の本件事故当時の価格が金一四〇万円であつたことは認め、その余の事実は否認する。

三  抗弁

1  過失相殺

被告榊は被告車を運転して本件事故現場付近の走行車線を先行の大型トラツクに追従して走行していたところ、同車の前方に大型トレーラーが停車していたため、追越車線に移行するべく、バツクミラーで後方の安全を確認したところ、近接車が見当らなかつたので車線変更をはじめた。そのとき右大型トラツクが急停止したため、同車の最後部に被告車の左バツクミラーが接触したので、被告榊は、追越車線に移り終つた後右大型トラツクと並行して一時停止し、被告車助手席から右大型トラツクの運転手に話しかけたが聞えない様子なので、被告車を発進させようとした際、後方から進行してきた原告車に追突された。被告榊が追越車線に進路変更をはじめてから追突されるまで一〇秒以上は経ており、また原告車が被告車の真後から追突している点からみても、本件事故は原告車運転者の前方不注視という重大な過失によつて発生したものであるから、これを原告の損害額の算定に当つて斟酌すべきである。

2  損益相殺

本件事故により被告車も損傷しその修理費は金二四万五〇〇〇円であつたからこれを原告の損害額から控除すべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生について

請求原因1(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがなく、本件事故の態様は後記認定のとおりである。

二  責任について

成立に争いのない甲第一号証、証人木口正広の証言、被告榊本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故現場は名神高速道路上り線の米原トンネル手前路上であるが、右上り線は三車線(以下左側端から順次登坂車線((但し右トンネル手前で終つている))、走行車線、追越車線と称す。)からなり、右トンネルに向かい上り坂で右に緩やかにカーブしていること、被告榊は、本件事故当事、被告車を運転し右上り線の登坂車線を先行する大型トレーラー、大型貨物自動車に引続きその後方を時速約七〇キロメートルで進行し本件事故現場付近に差しかかり、右大型貨物自動車に続いて走行車線に移行してやや進行したところ、前方の右トンネル手前付近で右大型トレーラーが停止し、次いで右大型貨物自動車が制動停止しようとしたので、被告車のブレーキをかけたものの、衝突の危険があつたため、追越車線に移行するべく更に同車線に進路を変更しはじめた際、被告車の左前バツクミラーが右大型貨物自動車の右後部と接触したため、走行車線に停車した同車の運転手に文句を言うべくブレーキをかけ同車とほぼ並行して追越車線に停車したところ、やや間をおいて被告車後部に原告車前部が追突したこと、被告榊は追越車線に進路を変更するに際し右後方の安全を十分に確認せず追越車線を進行してきた原告車に追突して初めて気付いたこと、一方、木口正広は原告に雇用されトラツクの運転手として稼働しているものであるが、その頃、その業務執行として原告車を運転し右上り線の走行車線を時速約八〇キロメートルで進行し本件事故現場付近に差しかかり、走行車線前方約一五〇メートルの位置を同方向に進行している被告車を認め、これを追越すべく追越車線に移行し進行したが、その際原告車の進路前方へ進路変更し制動停止する被告車に気付くのが若干遅れ急ブレーキをかけたものの停車した被告車に原告車が追突したことが認められ、証人木口正広の証言及び被告榊本人尋問の結果中右認定に抵触する部分はたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、被告榊は走行車線から追越車線に進路を変更するに際し、右後方の安全を十分確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と進行した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

また被告会社が被告榊を使用し同被告が被告車を運転しその業務を執行中本件事故を発生させたことは当事者間に争いがないところ、右のとおり被告榊に過失があることが認められるから、被告会社は民法七一五条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

更に右認定の事実によると原告の被用者木口正広にも被告車の発見ないし制動措置の遅滞の過失が存したものといえる。

そして木口正広と被告榊との本件事故についての過失割合はその他本件事故の態様等に鑑みると木口正広三割、被告榊七割と認めるのが相当である。

三  損害について

1  車の滅失による損害

前記甲第一号証及び原告代表者尋問の結果によると、原告は本件事故当時原告車を所有していたところ、同車は本件事故により修復できない程度に破損し廃車とされたことが認められる。そして原告車の本件事故当時の価格が金一四〇万円であることは当事者間に争いがないので、原告は同額の損害を被つたものと認められる。

2  休車損

原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証及び同尋問の結果によると、原告は貨物運送等を業とする会社で、原告車を右営業に使用していたものであるが、昭和五六年一一月から昭和五七年二月までの同車による売上は一日当り平均金五万四一三三円であつたところ、その必要経費として概ね六〇パーセントを要していたから、同車による純利益は一日当り平均金二万一六五三円であつたこと、原告車は前認定のように破損し使用できなくなり、このため原告は車両を買替え新しい車両が昭和五七年四月二六日納入されたことが認められる。ところで車両を購入して営業に使用できるまでの相当期間(休車期間)は通常一五日程度をもつて足りるものと推認されるので、本件事故と相当因果関係ある休車損の金額は金三二万四七九五円となる。

3  レツカー代、代車使用料、積替人夫費用

前記甲第二号証、原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第三号証及び同尋問の結果によると、原告は本件事故による原告車の破損のため原告車のレツカー代として金一三万八〇〇〇円を、同車の積荷の積替人夫費用として金三万二〇〇〇円を負担したことが認められる。

なお原告は本件事故の際の原告車の代車使用料として金一五万円を要した旨主張するが、右金額を十分に裏付けるに足る客観的証拠資料が窺えないのみならず、右尋問の結果によると原告は本件事故当時約三五台のトラツクを有していたところ、本件事故の際原告車に代わり他の保有する車両を使用したことが認められるから、前記の如く原告車による休車損を認めれば足り、更に代車使用料を認めるのは相当でない。

4  過失相殺

原告の被用者である木口正広にも前記割合の過失が存するので、原告の損害額の算定に当つてこれを斟酌し過失相殺するときは、前記損害額の合計額は金一三二万六三五六円(一円未満切捨)となる。

5  弁護士費用

弁論の全趣旨によると原告は本件損害賠償事件解決のため原告訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、相当額の着手金、報酬の支払を約していることが認められるところ、被告らに求め得る本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は金一三万円と認めるのが相当である。

6  なお被告らは被告車の修理費を損益相殺すべき旨主張するが、これが損益相殺の対象とならないことは明らかである。

四  よつて原告の本訴請求は被告ら各自に対し金一四五万六三五六円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五七年三月二三日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山邦和)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例